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あの星に届かなくても
第1章 それぞれの夜
「リエさん、大丈夫?」
好奇心に満ちた声を投げられ、紗恵は振り返った。
ベッド下の死角でなにが行われているか気づいていない男の股間は、すでに二度目の快楽を待ちきれないとでも言うように漲(みなぎ)っている。
「あらあら、元気ね」
「リエさんは力尽きちゃったの?」
「腰が砕けたわ」
「俺の、そんなによかった?」
「ええ。あなたは最高よ」
――顔と、身体と、その強靭な精力が。
心の中で呟き、紗恵はにこりと微笑んだ。
男に背を向けながら音を立てずに容器の蓋を閉め、何事もなかったように立ち上がる。部屋の隅に置いておいたバッグのもとに屈むと、中からハンドタオルをつまみ上げて容器を包み、バッグの奥に忍ばせた。
「なにしてんの」
男の訝しげな声。これ以上怪しまれるわけにはいかない。紗恵はバッグから携帯電話を取り出し、あっ、と小さく叫んで振り向いた。
「ごめんなさい。主人がもう家に帰ってきてるみたい」
「え、でも、今夜は帰ってこないって……」
「たまにあるのよ、こういうこと。もう行かなくちゃ」
「ええっ! いいじゃん、もう少しだけ」
「だーめ」
本当はなんの通知も来ていない携帯をバッグの中に落とし、ベッドに歩み寄る。
「あなた、少しじゃ済まないでしょ」
意地悪く言いながら男のそばに腰かけ、そのたくましい腕に触れる。
「外してもおとなしくしてね」
「……嫌だ」
「お願いだから。今度はゆっくり会いましょう」
「また会ってくれるの?」
すがるような視線に無言の微笑を返した紗恵は、男の手首の拘束を解いた。両手を自由にされた男が名残惜しそうに腕を掴んでくる。