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あの星に届かなくても
第2章 いびつな日常
◇◇◇
車で帰宅した紗恵は、夜の“仕事”のために下着からすべて着替え、タクシーで待ち合わせのホテルに向かった。
今夜の相手は、『セクシーな下着だね』と悦んだ昨夜の若い男が可愛く思えてしまうほど、鬼畜で、おまけに執拗だった。日付が変わる頃にチェックインし、三時間後にようやく解放されてホテルを出た。
疲れ知らずの獣に陵辱のごとく攻められた身体は悲鳴をあげている。いくつかの卑猥な道具で胸や秘部を嬲(なぶ)り、何度も噴き出させた淫液で冷たくなったシーツの上で、男は紗恵を犯しつづけた。ときには自身を紗恵に無理やり咥えさせて口淫を迫り、最後には紗恵の顔に向けて欲を放った。
おそらくこの町で一番背の高い五階建てマンションの前でタクシーを降りると、道路脇に停車している白塗りの高級セダンが目に入った。紗恵は腕から提げたバッグの中を探りながら、ヒールを鳴らしてゆっくりと車に歩み寄る。
運転席のサイドウィンドウが下がり、姿を現した男が手のひらを差し出した。
「ずいぶん遅かったな。そんなに愉しめたか」
「最悪よ。一人でするほうがよっぽどいいわ」
体液入りの容器を手渡しながら吐き捨てれば、男は声を出して笑った。
「お前も苦労してるなあ」
その小馬鹿にしたような言い草に、紗恵は、ふん、と鼻を鳴らす。
「そっちこそどうなのよ」
「ああ、順調だよ。ただ、最近相手にした女性に交際を申し込まれて困っている」
「いいじゃないの、気に入ったなら」
「僕はどの女性も気に入らないよ。自分のポリシーに反するからね」
「気取っちゃって……やな感じ」
コートの腕を組んでふてくされていると、不意に長細い茶封筒が差し出された。