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あの星に届かなくても
第3章 非日常のくぼみ
紗恵の採用面接をしたとき、彼女がほかの従業員との間に亀裂を生じさせるかもしれないことを宗介は予想していた。
彼女は自分に向けられる悪意を一見うまく受け流しているようだが、実際には敵意を剥き出しにしている。気が強く、相手が誰だろうと立ち向かうタイプだ。宗介が店長として配属される前からこの店舗にいる山口や斉藤が、あきらかに悪目立ちしそうな彼女のことをよく思わないのは目に見えていた。
しかし、宗介は紗恵を採用せざるを得なかった。面接の日にたまたま様子を見にきていた上司が、彼女を目にして言ったのだ。『この店には必要な人材だ』と。担当エリアの店舗を総合的に管轄する立場の人間が、なにを根拠にそこまで強く彼女の採用を求めてきたのかはわからない。
紗恵よりも、慧子のほうが事なかれ主義で対人関係をドライに捉えている。自分の中に感情を押し込めることに慣れていて、他人と必要以上に親しくならない。それがなぜか周りからは、扱いやすいとか優しいとか都合よく解釈されるので、当の本人は複雑に入り組んで絡まる感情の糸を周りから求められたとおりに正そうと苦労している。
考えてみれば、慧子の採用を即決した自分も、上司に負けず突飛なことをしたものだと宗介は思う。