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あの星に届かなくても
第3章 非日常のくぼみ

 五時を過ぎると、誰かが休憩室に入ってくる音がした。直後スライドドアがノックされ、がらりと開けられた。

「市川くん、お疲れー」
「はい、お疲れさまです」

 振り向きざまに答えると、見慣れたふくよかなユニフォーム姿の山口が苦い表情を浮かべる。

「今日はレジ交代、望月ちゃんじゃなかったね」
「そりゃそうです。今日は土屋さんが担当だから」
「どっと疲れたわ」

 その大袈裟な言い方に、宗介は苦笑を返した。

「なんで。別に喋ってないでしょ」
「喋らなくても疲れるのよお。オーラで」
「気のせい」
「いやーなんか違う人種なんだよね、あの人」
「同じ人間ですよ。山口さんとなんにも変わらない人間」

 親しげに優しく諭せば、山口は呆れたように笑った。

「息子さんは元気ですか」

 なにかを言い返される前に、宗介は山口が必ず気を緩める話題を提供した。職場では滅多にしない宗介の世間話は、こういうときに効果を発揮する。案の定、山口は穏やかな表情を見せた。

「来月センター試験だからピリピリしてるわよ」
「もうそんな時期か……。どういうところを受けるんですか」
「教育学部。偏差値高いところみたいで」
「それはピリピリしますね」
「市川くんも大学行ってたんだよね」
「……はい」
「何学部?」

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