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あの星に届かなくても
第3章 非日常のくぼみ

 その質問を受けた時点で、その先に待つ話の流れがすでに透けて見える。墓穴を掘った、と宗介は思った。よりによって学部に繋がる話を振ってしまった。抵抗感はあるが、どちらにせよ正直に答えるほかない。

「……薬学部です」
「えっ、すごいじゃない! どこの大学?」

 宗介が東京にある有名大学の名を呟くと、山口の一重まぶたが大きく開かれた。

「あんた、なんでこんなところで店長やってんの。そんないいとこ出てるなら、もっと……」
「いや、中退したんで」

 宗介は、ユニフォームの胸元に付けられたネームプレートに指を添えた。落とされた山口の視線は、そこに記された肩書きが“薬剤師”ではないことを把握する。

「あらやだ、今まで気にして見てなかったから」
「ははは」
「勿体ないねぇ……なんで辞めちゃったの」
「うん、まあ、いろいろと。家庭の事情です」

 言葉を濁して薄く笑むと、哀れみを孕んだ目を向けられた。これまで何度か経験してきた空気が流れる。

「あんたもいろいろ大変なんだねぇ……」
「別に大変じゃないですよ」

 笑みを繕ったつもりはないが、不幸な表情に見えたのだろうか。軽く肩を叩かれた。
 母親特有のあたたかみと、人生の長さを感じさせる厚さ――母のそれを彷彿させる。

「もうあんたを困らせないようにしなきゃね」
「それは助かります」

 宗介は苦笑まじりに返した。自分の不運が予想外の効果をもたらしたことが、ひどく滑稽に思えた。

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