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あの星に届かなくても
第3章 非日常のくぼみ
***
発注作業、事務作業、レジのヘルプに入ったり、商品について詳しい説明を求められ対処に困った――昨日の慧子のような――パートのフォローをしたりと、ふだんと変わらない、忙しくも暇でもない時間が過ぎていった。
「じゃあこれにするわ。ありがとね、お兄さん」
「お大事にしてください」
閉店間際。喉が痛いので薬を買いにきたという中年の女性客は、宗介が勧めた商品を手にしてレジに向かっていった。しばらくして、紗恵のよく通る「いらっしゃいませ」が聞こえてきた。
静かになった医薬品コーナーで、商品棚にずらりと並ぶ小さな箱の数々をなんとなく眺める。ふと、宗介は胸元のネームプレートに記された“登録販売者”という文字を見下ろした。
薬剤師ではないが、医薬品を販売できる資格を持つ者。登録販売者に許されるのは、市販されている薬のうちの第二類医薬品――風邪薬、解熱鎮痛薬、漢方薬など――と、第三類医薬品――ビタミンB・C剤、整腸剤など――の販売だが、日本で扱われている市販薬の約九割は第二類と第三類であるため、一般的に使用されているほとんどの医薬品を販売することができるといえる。
とはいえ、この店には薬剤師でないと販売できない第一類医薬品も置いてある。テレビCMでごく普通に宣伝されているものもあるため、当然簡単に手に入ると思って来店する客もいるが、宗介にはそれを売る資格がない。第一類医薬品については店に一人常駐している薬剤師に任せるのだが、ちょうど今のような不在時は販売できない。