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あの星に届かなくても
第3章 非日常のくぼみ

「……めんどくせ」

 思わずこぼれた本音。そもそも雨が降っていようがいまいが、帰りが十時を過ぎるとわかっていてなぜあえて長い距離を歩いてくるのか理解に苦しむ。
 眼鏡を外してレンズについた水滴を服の裾で軽く拭い、かけ直す。村田の車が走り去るのを見届け、宗介は愛車のエンジンを目覚めさせた。車を発進させ店の正面につけると、助手席のドアが開けられ紗恵が乗ってくる。

「お願いしまぁす」

 艶のある高い声とともにドアが閉められると、雨音が遮断された車内は妙に居心地が悪くなる。荷物をひざに乗せてシートベルトを締める紗恵を一瞥し、宗介は前を見据えた。

 車が走りだしてしばらくした頃、隣から悩ましげなため息が聞こえてきた。

「なんか……頭痛い」

 その沈んだ声に視線をやると、紗恵がひたいに手を当てて俯いている。

「大丈夫ですか」
「うーん、実は仕事中からちょっと変だったの。気のせいだと思ってたけど、そうじゃないみたい」
「寒気は?」
「ないよ。疲れてるだけだと思う。帰って休めば大丈夫」
「そうですか……」

 宗介はステアリングを握り直した。近づいてくる信号が黄色に変わるのを見て車を減速させ、交差点の手前にある脇道に入る。この時間になると車通りがほとんどなくなる通りを抜けると、そこからは紗恵の道案内に従い五分ほどでマンションに辿り着いた。

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