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あの星に届かなくても
第4章 過ちはまどろみの中

 寝室から出てきた紗恵が、引き戸を閉めながら苦笑した。

「そこ、閉めてくれる? 暖かい空気が逃げちゃう」
「ああ……はい」

 宗介は後ろを振り返り、開けたままにしていた扉を閉めた。かちゃり、と音を立てたそれは、また一歩、現実世界を遠ざける気がした。

「上着脱いでくれたら掛けるけど」
「いえ、長居しないので。それより……」
「コーヒーでいいかな。あ、紅茶とかのほうがいい?」
「あの、聞いてます?」
「一杯だけ……それくらい付き合ってよ。話は聞くから」

 ふてくされる紗恵にうんざりしながら、宗介は促されたとおりソファに歩み寄り、浅く腰かけた。

「ねえ、なに飲む?」
「……じゃあコーヒーを」
「おっけー」

 長い艶髪を耳にかけながら満足そうに微笑み、鼻歌を歌いながらキッチンへ向かう紗恵。まるで幼い子供のような女だ。

「ミルクと砂糖は?」

 キッチンに立つ細い背中が言った。食器棚から取り出したマグカップにドリップバッグをセットしているのが見える。

「結構です。お気遣いなく」
「はーい」

 ドリップケトルで沸かした湯をゆっくりと注ぐ後ろ姿を一瞥し、小さくため息をついた宗介は、暖房が効きはじめたばかりの部屋の中を漫然と見回した。

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