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あの星に届かなくても
第4章 過ちはまどろみの中

「精力剤ですか」
「やだ、そんなのコーヒーと一緒に飲ませないわよ。ちょっとした惚れ薬。副作用はないから安心してね」
「なんだそれ……」
「それ以上は訊かないで。極秘だから」

 低くなったその声に振り向けば、ニットで胸元から下腹部をかろうじて隠す姿が目に入った。意味ありげに微笑む女は、ソファに座り込んで動こうとしない。

「もういいから、早く服を着てください。土屋さん」

 名指しで命じると、一瞬ぴくりと肩を震わせた紗恵はふと俯き、髪を耳にかけながら苦笑を浮かべた。

「先に奪っちゃおうと思ってたのに、残念」
「なんのことですか」
「わかってるくせに」

 そう言われ、ふと慧子の顔が浮かぶ。

「意外と嘘が下手ですね」
「どうして?」
「本気で奪う気なら、わざわざ彼女の名前を出そうとは思わないはずです」

 依然として視線を下に落としたままの紗恵は、ニットを握りしめた。

「ほんと……真面目で、現実主義で、つまらない男」
「褒めていただきありがとうございます」
「……っ、褒めてなんか……」

 ふと顔を上げた紗恵が、宗介の股間に目を留めて黙り込む。小さく噴き出し、くすくすと笑い始めた。

「ねえ、ズボン閉められる?」
「閉めます。ご心配なく」

 宗介は無表情で返しながら、いくらか血が引いてきたそれをうまく収まるように調整し、前のボタンを閉じてファスナーを上げた。まだ少し窮屈だが仕方ない。ベルトを締めるとソファの下に落ちている上着を拾い、袖に腕を通しながら部屋の扉に向かった。

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