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あの星に届かなくても
第4章 過ちはまどろみの中
「惚れ薬入りのコーヒーごちそうさまでした」
振り返らずに嫌味を言うと、ふん、と鼻を鳴らす音が聞こえた。
「忠告しておくね」
「なにをですか」
「慧子ちゃんを護ってあげて。あの子は狙われやすいと思う」
背中に投げられた意味ありげな言葉に、ふと足を止める。
「ぼんやりしてたら奪われちゃうからね」
「誰に」
「私に協力してくれるなら教えてあげる」
「勘弁してください」
「あっそ。じゃ、一人で頑張って」
真偽の判断がつかないような言い回しを散々されたあげく、そうやって簡単に切り捨てられればさすがに腹が立ってくる。「あのな」と重い声を発し、宗介は振り返った。
目に入ってきたのは、まるで絵画の中の娼婦のように、青白く見えるほどに薄い色の肌を晒して気だるげにソファにしなだれかかる、美しい――美しすぎる女の姿だった。
「気に入っているなら、ちゃんと捕まえておきなさいよ。大切な人がいつまでも同じ世界にいてくれるように」
鋭い視線とともに送られたその言葉は、意味こそわからないが妙に説得力があった。無言を返し、宗介は静かに部屋を出た。