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あの星に届かなくても
第4章 過ちはまどろみの中

◇◇◇

 ベッドに入っても、慧子はなかなか寝つけなかった。何度も寝返りをうって騒がしい胸の音を紛らわそうとしたが、目が冴えるばかりだった。
 原因はわかっている。ふとしたときによみがえる半年前の出来事に、今でも囚われているからだ。

 慧子は以前、東京の商社で営業アシスタントとして働いていた。
 デスクワークで地味な仕事だが、処理する量は多く、常にプレッシャーとの闘いだった。仕入先と得意先との板挟みになりながら、営業のサポートやお客様対応をおこなう正確さとスピード、気配りやコミュニケーション能力が必要とされた。とはいえ、表に出ずに裏でうまく立ち回るのが得意な慧子にとって、誰かを支え、人と人を繋ぐその仕事は大きな達成感を得られるものであった。
 入社二年目の半ばを過ぎたあたりから、仕事の話だとか、相談があるとか、いろいろな理由で部署の上司から飲みに誘われることが増えた。毎回二人きりなのが気になったものの、新卒で入社してからずっと世話になっていた人なので断りきれなかったし、自分が少しでも誰かの役に立てることが嬉しくもあった。
 ふだんから自覚なく女性を軽視するような発言の多い男だったが、卑猥なことを言ってくる程度だったので慧子は軽く聞き流していた。空気を崩さないように、なるべく笑顔で。
 それが悪かったのだろうか。ある頃から、酔った勢いで肩を触られたり抱きつかれたりするようになった。誰かに相談しようにも、古い体質の会社にセクハラを訴えたところで状況が悪化するのは目に見えていた。そう思って我慢すればするほど、行為はエスカレートしていった。

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