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あの星に届かなくても
第4章 過ちはまどろみの中
それは、入社三年目に入ったある日の残業中に起こった。
給湯室に一人きりでいた慧子の背後に現れた男は、尻に下半身をぴったりとつけるように身体を寄せてくると、残業が終わったら飲みにいこうと誘った。
もう限界だと思った慧子は、『やめてください』と冷静に言った。すると急に怒りを露わにした男は慧子を怒鳴りつけ、壁に押しつけて唇を奪おうとした。
腕を力いっぱい突き出して拒否すると、今度は脚の間にひざを入れてきて強引に股を開かされた。スカートの中に忍び込んできた生ぬるい手の感触に、一瞬にして血の気が引いた。逃げなければと思ったときにはすべてが手遅れだった。
口を大きな手のひらで覆われると、息がうまくできなくなった。男の馬鹿力と立場を利用した脅しを前に、恐怖と混乱でいっぱいになった頭の中で思いついた答えは、一刻も早くこの時間が終わるのを願いながら涙をこらえることだけだった。
「……っ」
その先を思い出す前に、慧子はもう一度寝返りをうった。そっとまぶたを下ろすと、視界を覆いきった涙がこめかみに流れる。枕に顔をうずめ、慧子は静かに嗚咽を漏らした。
絶望的な気分の中で、ふと思う。なぜ市川はこんな自分を採用してくれたのだろう、と。