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あの星に届かなくても
第4章 過ちはまどろみの中

 そもそも、警察でどう説明するというのか。秘密組織に所属する女に襲われ、無理やり精液を搾り取られそうになったとでも言えばいいのか。そんな嘘臭い話を誰が信じるだろう。頭のおかしな人間が他人の気を惹きたいがためにでっちあげた作り話だと思われるに違いない。
 人々は、今まで実際に見たことも聞いたこともない話を簡単に鵜呑みにはしない。真実かどうかわからない情報が飛び交う世の中、まず疑うことから始め、見極め、そして切り捨てる。そうしなければ、偽りの情報に埋もれて身動きが取れなくなるからだ。
 一般的に考えてあり得ない話というのは、実際に事が起こってようやく深刻な事実として認められる。多くの人は、“知らないこと”に対して無関心なのだ。だから裏社会が成立する。

 あの馬鹿げたストーリーが真実である保証はどこにもないが、宗介は嘘だと決めつけることができない。紗恵の切迫した態度も、切実な孤独も、なぜだか少しは理解できる気がしたのだ。
 決して優しさではなく、同情でそう思った。自分の目に可哀想に映った女を放っておけない、ただの偽善だ。

 十五分足らずで洗いを済ませ、宗介は浴室を出た。脱衣所の壁面収納からタオルを取り、髪と身体を拭いて洗濯機の中に放る。洗面台に立ち、眼鏡をかけて歯を磨くと、濡れ髪のままのそのそと部屋に戻った。
 素肌がひんやりとした空気に晒され、ふと、くしゃみが出た。短く息を吐き、クローゼットから濃灰色のスウェットと下着を出して身につけ、暖房のスイッチを入れる。
 携帯は、と思って一瞬止まり、目に留まったのはさきほど床に放った上着。おもむろに拾い上げ、ポケットを探って財布と携帯電話を取り出すと、上着を壁掛けハンガーにかけた。

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