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あの星に届かなくても
第5章 走りだした焦燥
「頼みはそれだけか? なら答えはノーだ。帰ってくれ」
「いいえ、もうひとつ」
「なんだ」
重い返事にくじけそうになるも、紗恵は小さく息を吸い、声に変えた。
「中を、確認してくれない?」
その言葉に一瞬動きを止めた義巳は、はだけたシャツから覗く引き締まった身体の前で腕組みし、真意を探るように目を細める。
「なんの中かな」
「私の」
呟きながら下腹部に手を添えてみせれば、こちらを見つめる黒い瞳がかすかに怒気を帯びた。
「そ、その男と会う前に調べておきたいの。最近忙しくて、医療部に検診依頼する暇なんてなかったから……」
「僕になにを確認させようっていうんだ」
「だから、問題がないかどうか」
「ほかの男のために使う股の中が綺麗かどうかを、僕に検査させるのか」
「……っ、あなた、医療の知識があるでしょ」
義巳は眉間を寄せてなにかを考えるように目を閉じ、ゆっくりと開いた。目を合わせることなく無言で部屋の奥に行き、隣の部屋に続く扉を開ける。その背中がなにを語っているのか読み取れない。立ち尽くす紗恵に、「早く来い」と言った彼は扉の向こうに消えた。
通常、検診は医療棟でおこなうはずだ。そこでいったいなにをしようというのか。初めて入るその部屋に恐れを感じつつも、紗恵は意を決して一歩一歩進んだ。
「なによ、ここ……」
暖色系の空間から一変して、床や壁、天井に至るまで真っ白なその空間は、もはや無色といっても過言ではない。まるで手術室のような部屋に、検診台をはじめとする様々な器具が整然と並ぶ。
「お医者さんごっこが趣味だったのね」
軽蔑を孕んだ言葉をかけると、「遊びに使っているわけじゃない」と反論された。