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あの星に届かなくても
第1章 それぞれの夜

◇◇◇

「あっ、リエさん……」

 手枷でベッドに繋がれている若い男が、悦に入った顔で、出会い系アプリ内のハンドルネームを口にした。

 土屋紗恵(つちやさえ)は、仰向けで悶える男の吃立に腰を沈め、秘裂から体内を貫く肉棒の存在感に身震いした。

「ああっ、すごい」
「リエさん、そんなに動いたら……」
「だって我慢できないの」
「うあっ、だめだよ……あっ」

 情けない声をあげる男の筋肉美を見下ろしながら、その身体の上で紗恵は好き勝手に腰を揺らす。
 端正な顔に恍惚とした表情を浮かべる男は、ねっとりとした腰の動きを食い入るように見つめてくる。ホテルのエントランスでこの部屋を選択したとき、まさか自身のほうが手枷の餌食になるなど想像もしていなかったに違いない。
 その完璧な見た目に反し、男の前戯はお粗末だった。わざとらしい言葉攻めと激しい指使いには興醒めさせられた。拘束プレイが好きなわけではないが、こんな調子で男優位のセックスをされるくらいなら自分で動いたほうが合理的だと思い、早々に手の自由を奪ってやった。
 もとより愛し合うことを目的としていないし、目的はほかにある。
 虚しい行為とは思わない。もう思わなくなった。出会ったばかりの男女が互いに合意のうえで容易に目的を果たせるのなら、これほど有意義なことはない。

 紗恵は目を閉じた。首を反らし、揺れ動く豊満な乳房を自らの手で揉み上げながら、脳内に膨らむ快感だけに集中する。結合部で泡立つ愛液の音がより大きくなった。

「す、すげぇ腰使い……エロっ……」

――ああ、なんて下品な言葉。

 うわずった男の声に、紗恵は心の中で反論した。たとえば、“あの人”ならもっと――その先を想像しようとしたとき、下から思いきり突き上げられて反射的に高い嬌声が漏れた。それが雄の本能を刺激したのか、男はがむしゃらに奥をえぐってくる。

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