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甘党な愛
第18章 十八

* * *

 翌日の午前10時、私は仕事を抜け出し、都内のカフェで鬼沢さんと会っていた。

「例のブツです……」

「恵は書きましたか?」

「ええ……ちゃんと……」

 落ち着いた雰囲気の店内。お互い珈琲だけ頼んで、離婚届を受け渡しする。

「そうですか。ではこれは、僕が市役所に出しておきます」

「ちょっと待ってください!」

「何ですか?」

 帰ろうとする鬼沢さんを私が引き止めると、鬼沢さんは席を立つのを止めた。

「……恵は、親の選んだ相手と結婚させられるんですか?」

「どうでしょうかね。今回バツがついてしまいましたから、暫くそういうことはないと思いますよ」

「そうですか……」

 良かった……。鬼沢さんの返事を聞いて、自分のことのように安心した。それだけが気ががりだったから……。

「そういえば、椿さんにも質問があるんですが……」

「何ですか?」

「何故藤咲家を出たんですか?」

 唐突に質問されると、口ごもった。

「それは……」

 言いたくない。……喧嘩みたいなものだけど……。

「まあ、良いです。色々とありますから。ですけど風の噂で聞きました。藤咲社長は既に跡継ぎのことを考えていると。しかもそれを娘婿にしようとしていると。……噂ですがね」

「跡継ぎ……あのジジイが……」

 話した後、鬼沢さんが珈琲を飲む姿を見ながら、私はボソッと呟く。そして……

「それでは、もう会うことはないでしょう」

「サヨウナラ……」

 今度こそ席を立って一礼する鬼沢さんへ、挨拶した。……本当に冷淡そうな人々だった。にこりとも笑わないし。渋くて、何処か哀愁漂っているけど……。闇を感じる。
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