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甘党な愛
第19章 十九

* * *

 その日の夕食。食堂で四人一緒に食事していたが、その光景は普段とは違っていた。

「椿さん、口にソースがついちゃった。拭いてくれる?」

「はい!」

 葎の言葉に私は席を立つと、正面に座る葎の方へ移動して、布巾で葎の唇を拭く。すると……

「あ、今度は手にデザートのクリームついちゃった」

「只今、お拭きします!」

 またすぐに葎が言うと、礼儀正しく返事をしながら葎の左手全体を布巾で拭く。そして、

「今度は口にクリームが……」

「はい!拭きます!拭きます!」

 休む暇もなく、葎の唇をまた布巾で拭いた。食事をし始めてから、ずっとこうして葎に付きっきりだ。自分が食べようとしたら、何かしら甘えてくるし。……でも、我慢しないと。私が藤咲和巳の次女だと、秘密にして貰わないといけないから。

「椿さん、パン食べさせて」

「はいはい!只今!」

 葎の頼みにすぐ返事をすると、皿からクロワッサンを手に取り、ちぎって葎の口へ差し出す。

「はい、どうぞ」

 が……葎が指先まで口へ含むと、ドキッとした。

「……!ちょ、何して!」

 そのまま私の指先をペロッと舐め、葎は微笑む。

「椿さん、パン全部食べさせてね」

「……はい」

 偶然だろうか。でも明らかに今舐めたよな……。そう思いながらも、断ることは出来なかった。
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