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園主の嫁取り(くすくす姫サイドストーリー)
第2章 夜番とプリザーブ
*
「おい。誰か何か作ってんのか?」
厨房から甘い匂いが漂ってくるのに気付いて、夜番をしていたうちの一人が言いました。
ここは果物園の屋敷の厨房の控え室です。
住み込みで働いているものや、各地から修行に来ているものが、休んだり夜番をしたりするための部屋でありました。
今日も三人が当番として詰めていたのですが、そこへほのかに甘い香りが漂ってきたのを、一人が嗅ぎ取ったのでした。
「夜中だぜ、無いだろ」
寝ていた一人が言いました。
「気のせいですよ……」
もう一人も布団に潜り込もうとしました。
「いや、確かに、匂いがする。」
「サクナ様!?何故」
「悪ぃな、起こしちまったか」
絶対何か煮ている筈だと主張した一人に負け、三人は厨房に確認に来ていました。火を使う場所ですから、本当に何か煮えっぱなしになっていたら危険です。寝ていた二人も、しぶしぶ起きて、付き合いました。
サクナの前には鍋が、傍らの作業台の上にはなにやら書類のようなものが堆く詰まれて居りました。
どうやら、他の仕事をしながら、何かを煮ていたようです。
「もう終わったから、片付けたら戻る。お前達も戻っていいぞ」
サクナは手にガラス瓶を持って、煮えたものを詰めているようでした。
煮沸用の湯も沸いています。
「この匂い……イチジクですか?」
「ああ。また都に行くんで、土産にしようと思ってな」
都ではイチジクは珍しい果物のうちに入ります。
生で食べる分は小規模な畑で生産されたり、庭木として個人の庭園に植えられたりしているようですが、出回る量は多くありません。わざわざ調理をしたものは、滅多に見ることは無いでしょう。
見たことも無いイチジクのプリザーブにスグリ姫が目を輝かせて喜ぶ様子が浮かんできて、サクナの顔は緩みました。
「必要なことが終わられたら、どうぞお休みください。片付けは私達がやりますんで」
夜番が慌てた様子でそう言うと、サクナは、そうか?と少し考え、じゃあ頼む、と書類を抱え、緩めに蓋をした瓶を、持っていた箱に慎重に収めました。
「遅くに、邪魔したな。詫びと礼だ、残りはやるよ」
じゃあな、と片手を上げて、サクナは去っていきました。