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スグリ姫の試練(くすくす姫後日談・その3)
第3章 三週目
「私は彼が不在の間に、彼の家を訪ねました。先代から仕えているという家令の方が応対してくれました。家令殿は、家の者は皆貴女様がいらっしゃることを待ち望んでいるし、歓迎すると約束してくれました。その点は、安心だったのですが」
「家令殿が言うには、サクナ殿は、彼の携わっている仕事でも生活でも、彼に関する全てのものは家に帰属する物で、自分は拾われて管理する役目を果たしているだけだと思っている。
心底そう思っているし、行動もそれに基づいているので、世の中で思われている姿と本人の実像が合っていない。当主を例えるには失礼ながら、あれは単なる真性の果物馬鹿です、と家令殿は苦笑していました。しかし、逆に言えばそのくらいでないと家を守る人間としては認められないのですよ、とも。
家を現在のように大きくしたのは彼の養父である先代当主と、先代の後を継いだ彼の力に依るもので、彼無しでは今までもこれからも家の安定と繁栄は望めないだろう、と言うことでした」
大臣はそこでカップのお茶を飲みましたが、お茶が濃く出すぎていたのでしょうか。
口に含んで、渋い顔になりました。
「それだけではありません。彼は産まれながらの当主ではなく、選ばれた当主です。それを快く思わない者に害されかけたことがあるという話が、過去にいくつもある様なのです」
(そんな…まさか、)
それを聞いて、姫は、サクナの傷を思い出しました。忘れたと言っていましたが、未だにひどい痕が残るような傷です。もしかするとあの傷も、単に木から落ちた傷ではないのかもしれません。
「あなた様が表に出ること、家業に携わることは無いでしょう。それは彼も強く言っていました。スグリ姫様に何かさせるつもりはない、ただ自分の傍にいてくれれば、それだけで良いのだと。
しかし、あなた様の婚約者殿は、とても大きな物を背負っている。たとえ貴女様を表に出さずに守るつもりだと言われても、そこに貴女を突然放り込むことは、私達にとっては到底認められないことだった。ですから私は、今回の彼の帰郷にあなたを伴うことを止めたのです。
…それらをお伝えした上で、もう一度お訊ねしたいのです。」
「スグリ姫様。貴女様は、それでも彼に嫁ぐことができますか?」