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スグリ姫の試練(くすくす姫後日談・その3)
第8章 七週目と、その終わり
「ええ。毎年のことなのですよ。一年で一番忙しい時期が終わると、必ず熱を出されるのです。なので今回も、こちらに出向かれるのは少し先にしたらどうかとお止めしたんですが…案の定これです」
ダドリーはやれやれ、というように肩をすくめて溜め息を吐きました。どうやらサクナのこの病気は、本当に珍しくもなんともない事のようです。

「…ですので、人に移る物ではございませんから、ご心配なく。当主の熱自体も、特別なことをしなくても、しばらくすれば下がります。…知恵熱みたいなものでしょうか」
「知恵熱?」
「ええ。とは言え、皆様ご心配になるでしょうから、屋敷で熱を出して下がってから出掛けることをお勧めしたのですが…仕方ありませんね。『絶対帰る』と言い張りましたもので」
「絶対、帰る…」
サクナは故郷に居たのですから、ここに来るのを「帰る」と言うのは、よく考えれば、正しくありません。
けれど、もしかしたら自分の元に赴くことを「帰る」と言ってくれたのかしらと思って、スグリ姫は涙が出そうになりました。

「…それでは大変申し訳ございませんが、私はそろそろお暇致します。」
「え?でも、」
南の地からここまでは、二日もかかる道程なのですから、少し休んでいったら良いのではと、スグリ姫は思ったのですが。
「私の事は、どうぞお気遣い無く。仕事が溜まっておりますもので…そうそう。お暇する前に、いくつかご注意を。
当主は熱が下がるまで物は食べません。水を飲ませて頂ければ充分です。かなり長いこと寝続けると思いますが、起こさなくても構いません。そして一番大事なことは、」
ダドリーは右手の人差し指を立てて、スグリ姫の前で軽く振りました。

「…当主は熱が高くなると、子どもに戻られることがございます。」
「…こども?」
意外な注意だったので、スグリ姫は思わず聞き返しました。
「ええ、子どもです。…正に、知恵熱ですね。多少面倒臭いかもしれませんが、その時は子どもとして扱って差し上げてください。」

ダドリーはそう言うと、もう一度深くお辞儀をしました。
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