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スグリ姫の試練(くすくす姫後日談・その3)
第8章 七週目と、その終わり
「う…」
呻き声の主が寝返りを打った拍子に、急ごしらえで整えられた客間の寝台の片方が軋みました。
「…起きた?」
もう片方の寝台を使わずに床に座り込んで様子を見ていたスグリ姫は、小さく声をかけました。
「…あ、」
姫の声が聞こえたのか、寝返りを打って姫の方に向いた顔の目が開きましたが、辛そうにまた閉じられました。
「大丈夫?お水飲む?」
「…ん。」
「起き…れない、わね。…これで、飲めるかしら…」
姫は置いてあった水差しからカップに水を注ぎ、自分の口に一旦含むと、口づけて水を注ぎ込みました。
ごくんと喉が動いたので、水は飲めたようでした。
「…大丈夫?」
「…もっと」
「ん、待ってて」
姫は同じようにして、何度か水を口に入れてやりました。
「もっと飲む?」
「…ううん」
「じゃあ、また寝ましょうね」
そう言って布団をとんとん叩きましたが、のろのろ首を振りました。
「…ねない。」
「眠くないの?」
「ねない。いなくなるから」
「え?」
そう言って布団から手を出すと、とんとんしている姫の袖を、きゅっと摘んで来ました。
(…もしかして、これが、こどもに戻ってるってこと?)
口調といい、袖を摘んできた様子といい、水を飲むかと聞いたときにこっくり頷いた様子といい、いつものサクナではありません。
何より、口づけて水を飲ませても何も悪さを仕掛けて来ないで大人しく水を飲んだだけというのが、いつもと全然違います。
そう考えていたら、熱っぽい目をして袖を摘んでいるサクナが、姫にぽつりと言いました。
「…ゆめみた。」
「夢?」
「…どこにもいなかった…」
「私?」
サクナはこっくりうなずいて、袖ではなくて腕を引きました。
「いなくなったらやだから、ねない。」
「…ここにいるわよ?」
子どもに言い聞かせるように、だからゆっくりお休みなさい、と言いましたが、サクナは腕をぎゅっと抱きこんで、ふるふる首を振りました。