この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
スグリ姫の試練(くすくす姫後日談・その3)
第3章 三週目
「姫様は、ご自分が嫁がれた後に残される方々の気持ちを、考えたことはありますか?」
「え?」
口調を改めて告げられた大臣の言葉は、姫には思いも寄らなかったことでした。
「王様とお后様、ハンダマ様もそうです。あなたが遠方に嫁ぐということは、その方々と簡単には会えなくなるということなのですよ。
数時間で行き来できる隣国から嫁いだレンブ妃様がこちらに長逗留していたのとは、訳が違う。南の地は国内ではあるが、ここからは最も遠い地域です。最短距離を辿っても、二日はかかる。婚礼前に長く彼の地に赴けば、それだけこちらで過ごせる時間は減るのです」
「…そう、ね…」
それを聞いて、スグリ姫は初めて、今と未来のことを繋げて考えました。
今姫はサクナを恋しく思っていますが、一旦彼の地に嫁いでしまえば、今度はこの地と家族のことを、恋しく思うようになるかもしれません。
気軽に行き来できる距離ではないのは、こちらから見たあちらのことも、あちらからみたこちらのことも、同じです。それなのに、今ここに居ない人を思ってどんよりすることは、結局何にもならないのだ、と、姫は改めて思い直しました。
「小父様、私の方こそ、ごめんなさい。私、自分のことばっかり考えてたみたい」
教えてくださってありがとう、と姫が言うと、 大臣は、大臣から昔馴染みの小父様に戻って姫に応えました。
「まあ、恋は盲目と言うから仕方が無いが…独身の私が言うのも何だが、結婚は恋の延長だけでは上手くいかないというからね」
そこで言葉を切った大臣は、お茶をもう一口飲みました。
「…止めた理由は、もう一つ有る。
こちらは、小父様としてではなく、王の名代である大臣としてお伝えせねばならないのだよ、姫」