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アムネシアは蜜愛に花開く
第4章 Ⅲ 突然の熱海と拗れる現実

合コンに行けば必ず男性は由奈さんを守ってあげたいと思うだろうし、だからといって由奈さんはモテている自覚がまったくないようで、いつもの口癖が〝いつか白馬の王子様が来ないかしら〟だったのだ。
怜二さんにも由奈さんも他に三人の女性の同期がいるけれど、彼女達は由奈さんを嫌ったために、怜二さんが仲裁のように間に立ち、必然的に危なっかしい由奈さんの世話役となっていたようで、由奈さんと怜二さんがデキていると、一部では噂をされていたらしい。
怜二さんがわたしを選んだのは意外だった、とも飲み会で言われたことがある。
それを気にしていなかったのは、怜二さんが由奈さんに手を出したくなる気持ちが見ていてわかるからだ。
飲み会でも暑い中を遅れてきた社員に冷たいおしぼりですと雑巾を渡したり、いつも転んだりぶつかったり落としたりしているのを見ていれば、わたし自身も自然と、わたしを可愛がってくれる由奈さんをフォローする側に回ってしまう。
――由奈嬢、宝塚とかにハマりそうなタイプだよね。杏咲ちんは見た目は愛らしいけど、潔いところは男役っぽいから。
香代子は線を引いて今時珍しい天然記念物を観察しているようだが、香代子の方が男役スターだと思うのに、わたしのことをそう形容したことがあった。
――ねぇ、杏咲。もしかすると由奈嬢、あざといかも知れないぞ?
しかしわたしは、そうは思わない。
由奈さんに本当に可愛がって貰ったから。
――はは。だから由奈嬢と友達ごっこができるのかもしれないね。広瀬氏と付き合っても。
辛辣な香代子の言葉を思い出した時、わたしの隣は怜二さん、巽の隣は由奈さんが座り、四人向かい合わせになった状態で、電車は走っていた。

