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アムネシアは蜜愛に花開く
第4章 Ⅲ 突然の熱海と拗れる現実

着付けだけではなく、まとめ髪までして貰い一階に行けば、怜二さんと巽はホテルの浴衣と紺色の羽織を着ていた。
ふたりとも逞しい胸板をチラ見させた浴衣姿は、湯に浸かってもいないのに色っぽい。
本当にイケメンって、無駄に色気を垂れ流すから嫌だ。
「凄く綺麗だよ。杏咲……」
怜二さんが眩しそうに目を細めて、開口一番で褒めて、抱きしめてくる。
怜二さんの腕の中にいながら、あの日の浴衣を選んでしまったわたしの良心は、ちくちく痛む。
怜二さんの奥に立つ巽と、目が合った。
彼は――泣きそうな顔をして笑っていた。
この浴衣を着せたかったのが、わたしではなかったのかもしれない。
十年前にわたしが着ていた浴衣の柄なんて、彼は忘れていたのかもしれない。
だけど彼が喜んでいたように思えたから、わたしも嬉しく思い、わたしも泣きそうになった。
忌まわしい浴衣を選んでよかったと思った。
「巽くん、どう? 杏咲ちゃんとどっちが可愛い?」
「そんなの俺の杏咲に決まってるだろう、三嶋」
「広瀬くんに訊いていないわよ。ねぇ、巽くん?」
そんなの、由奈さんの方に決まっている。
由奈さんは浴衣と同じ大輪の薔薇だ。
「どちらも可愛い」
……ありがとう、巽。

