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アムネシアは蜜愛に花開く
第4章 Ⅲ 突然の熱海と拗れる現実

「わ、わかっていたのなら、どうして最初から皆でこっちに来ないの!?」

 わたしが叫んだ時、大きな音がして花火が始まった。

 花火は真上に見え、そして拍手や歓声が岩場でも聞こえてくるから、観客はいるのだろう。

 ひゅるるるると音をたてて花火が上がり、バーンと音がして花火が大きく花開く。

 その瞬間に、巽が言った。

「――賭けだった」

 空には華々しい花火が形を変え、色を変え、拍手が聞こえる。

「賭けというよりも願掛けか。俺も見せつけられてかなり切羽詰まっていたから」
「見せつける?」
「お前と広瀬。あまりに腹が立って、お前とのこと昔も今もぶちまけたくなった。お前の蜜を舐めたことも、その味も」

 詰るような目が向けられた。
 
「ちょ……っ」
「だから浴衣に願掛け的に賭けたのさ。もしお前が由奈が着ている浴衣を選んだら、このまま計画実行。昼ドラ真っ青のドロドロとした、ジェットコースターのような愛憎劇にご招待」

 あちらを選ばなくて本当によかったと、わたしは胸を撫で下ろす。

「もしもお前が、十年前を唾棄せずにその浴衣を選んでくれたのなら――」

 またひゅるるるると音がして、場が明るくなる。
 巽の青白い横顔が見えた。

「お前をかっ攫った上で、素直になろうと思った」

 
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