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アムネシアは蜜愛に花開く
第4章 Ⅲ 突然の熱海と拗れる現実

「な、なんで?」
「……気づけよ、アホ」
たてた片膝に、ビール缶を持ったその手を垂らして、巽は詰るように言う。
「俺だって、花火大会は……」
ひゅるるるると音がして、また花火が上がる。
「好きな女と見たいんだよ」
こつんと、巽はわたしの額を小突いた。
「だったら、由奈さんと……」
「だから気づけって、ドアホ!」
「なんでパワーアップするの!?」
花火が音と共に空一杯に拡がった。
「十年以上前から俺は、お前と見たかったんだ」
「は?」
「あの浴衣、母さんがお前に渡したものだろう? あれは、俺が中学入った時に、母さんと一緒に店に行って、俺が選んだんだ。お前が俺と花火大会に行くことを楽しみにして。結局、あの浴衣は他の男のために着られてしまったけれど」
横を向いていた巽の顔が、静かにわたしに向く。
「お前と花火大会に行きたかった。……恋人として」
……心臓が止まりそうになった。
「こ、こい……な、なにを……っ」
また、ひゅるるるると音がした。
「こういうこと」
破裂音がして場が明るくなった時、不意打ちでビール臭い巽の唇がわたしの唇と重なっていた。

