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アムネシアは蜜愛に花開く
第4章 Ⅲ 突然の熱海と拗れる現実
 
 わたしは次々に打ち上がる花火などそっちのけで、混乱しかけた。
 巽もわたしを好きだなんてそんなムシのいい話は、夢でしかありえない。
 打ち上げ花火のように、いつかは存在すら消えてなくなってしまうのだろうか。
 
「……なにか反応しろよ、人生初の俺の告白なんだぞ?」

 花火の色を映した、巽の瞳は優しい。

「いや、だって。昔の巽、わたしが声をかけると凄く嫌がってたじゃない。気安く話かけるんじゃない的に睨み付けられて、嫌われていると思っていたのはわたしの方で……」
「……でれでれしそうになるのを我慢してたんだよ。こうやって眉間に力を入れて」

 その顔は、わたしがよく見ていたものだった。

「だけどまあ、お前に恨みがましい目は向けていたかもしれない。こんなに好きで、お前振り向かせるために、女みたいなところを直そうと必死に頑張っていたのに、お前は手紙書いても無視だし、アムネシアも千切り捨てるし」
「え、なにそれ」
「忘れたのか、お前」

 巽は呆れ返ったようにして、話し始める。

「俺が中学に入って、お前が受験期に突入した時、お前徹底的に俺を嫌っただろう? あれ、俺にはかなり堪えていて。話したくてもお前、家にいないしぴりぴりしているから、受験結果が出た時、俺……お前と元に戻りたくて、呼び出したろう。中学の校舎裏で。お前が来るまで待って居るからと」
「え……知らないよ、そんなもの」

 記憶を探るまでもなく、そんな手紙はわたしは貰っていない。
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