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アムネシアは蜜愛に花開く
第4章 Ⅲ 突然の熱海と拗れる現実

 懇願するような弱々しい目にきゅんとしながら、わたしは頭を横に振る。

「両想いだとわかったのなら尚更、お前が欲しい」

 その真剣な眼差しと、わたしを掴む強い両手に、くらりとしてしまうけれど。

「由奈さんがいるでしょう、巽。わたしに怜二さんがいるように。由奈さんが好きだから、結婚しようとしているんでしょう?」

 その現実はなにひとつ変わらないというのに、巽はどうしてこんなに真っ直ぐに出来るの?

「好きじゃねぇよ」

 巽が不機嫌そうに吐き捨てた。

「え? だって婚約……再来月結婚するって、自分で言ったじゃない、皆に」
「ああ、あれはそういう協定だったから」
「協定?」
「俺達は同志なだけだ。それに前に言っただろう、俺が勃つのはお前だけだ」
「いやでも、すごく優しく見ていたよ、由奈さんを。いちゃついてもいたし!」
「それは……お前の反応を見たかったから、お前の前ではやりすぎたところも確かにある」

 巽は翳った顔で言う。

「お前を手に入れるためには、俺は由奈との結婚を知らしめることが必要なんだ」

 意味がわからない。
 結婚とは他の女のものになるということだ。その上でわたしを手に入れようとするのは不倫だ。不貞だ。

「意味がわからないよ」
「わからない? じゃあなぜ俺が、由奈と広瀬の関係が怪しいと言えると思う?」

 考えてみれば、巽は今までの怜二さんと由奈さんの仲良さや怜二さんのフォローなどをよく知らずして、ほぼ断定の方向で最初から疑っていた。

「それは、由奈さんを見張っていたとか。よくあるじゃない、婚約者の素行調査とか」
「悪いが、そこまで由奈に興味はねぇよ」

 じゃあなぜ?
 なぜ巽は、ふたりが怪しいのだと言えたの?
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