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アムネシアは蜜愛に花開く
第4章 Ⅲ 突然の熱海と拗れる現実

「俺達はもう、姉と弟じゃねぇんだ。血の繋がりもねぇ、ただの男と女なんだよ。なにも我慢しなくていいんだよ、アズ。また出会えたんだから、今度こそ一直線に俺の腕の中に来てくれよ」
「たつ……」
「アズ、俺を求めろよ。お前が求めてくれるなら、俺なんでもするから。もう二度と、離れたくねぇ」
揺さぶられるわたしの目から涙が零れる。
「アズ、言えよ。俺が欲しいって!」
欲しい。欲しい。巽が欲しい。
好きでたまらない。
誰かを傷つけるどんな罰を受けてもいいから、わたしのものになって欲しい。
「わたし……」
果てに追い詰められ、目に白い閃光が散り始めた。
一度くらい、言いたい。
巽に好きだといいたい。
わたしの気持ちを解放させたい。
もっと素直に、心も体も愛されたい。
「わたしは……っ」
しかし言葉が出てこない。
「言えよ、アズ! 俺達は本音を言わなかったから、苦しんだんだろう? だから言えよ。俺も言ってるだろう!? もう昔と同じことは繰り返したくねぇんだ。俺の嫌いなところがあるなら言え! 直すから。だからはっきり言ってくれよ。俺になら……言えるだろう、お前は!」
「……っ」
「……それとも、俺が他の女に溺れて、結婚してもいいのか?」
その低い声に、わたしの口からするりと言葉が出た。
「駄目……」
由奈さんと関係しているかもしれない怜二さんに、気分はよくはなかったけれども、こんなに激しい嫉妬は芽生えなかった。嫌だときっぱり言えるだけの気持ちがなかった。
怜二さんに対するものとは違う。
わたしは――巽を溺恋している。
「巽が……好き。今も……好きっ」
胸が苦しくて、泣きたくなるほど。
再会して数日で、わたしの心は巽にもっていかれてしまった。
彼に溺れてしまった。

