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アムネシアは蜜愛に花開く
第5章 Ⅳ 歪んだ溺恋と束の間の幸せ
 
「知らないと思ってた? あんな味はないよ、さすがに。ん……これが杏咲の味なんだね。これを味わえるのは専務だけの特権じゃない。さあ、杏咲。舐め尽くしてあげるからね。んん……」

「アズ!」

 巽が見ている……そう思ったら、さらに涙が溢れてわたしの身体に反発心が目覚める。好きだったひとなのに、触られるだけで嫌悪感に鳥肌が立った。

「やだ、怜二さんやめて……っ」

 由奈さんに愛撫されながら、巽が叫んでいる。
 叫びながら、目が合った。
 
「巽……助けてっ」

 わたしは、怒濤のように胸に荒れ狂う感情を喉奥から迸った。

「嫌だよ、巽以外のひととしたくない――っ」

 バチーンと音がして、頬が痛んだ。

 十年前、わたしは義母に頬をぶたれたことを思い出す。

「どうしてだよ」

 怜二さんの形相と涙が、義母とだぶって見えた。

「俺がこんなに好きなのに、どうして、どうして杏咲は俺を好きになってくれないんだ!」

 バチーン!

 叩かれる音が、あの日の蝉の音になる。

――この売女っ、アバズレが!

「どうして……きみは!!」

 バチーン!
 あの日のような、遠い夏蝉の音に。

――私から息子を寝取るなんて!! 

 そして、わたしの蜜壷に、怜二さんの猛ったものがねじ込まれる。
 その瞬間、堰き止められていたものが奔流として外に出た。

「いやあああああ!」 

 濡れていないそこに無理矢理こじ開ける激痛。
 それは頬をぶち続ける義母と重なる。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

 涙が溢れ出た瞬間、ガツンという激突音がして痛みが引いた。

 そして抱きしめられる。
 ふわりと、優しくて甘いアムネシアの香りがした。
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