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アムネシアは蜜愛に花開く
第5章 Ⅳ 歪んだ溺恋と束の間の幸せ

「なんで巽くん、私の杏咲ちゃんに手を出そうとするのよ、そんなの約束してないじゃない!! 広瀬くんの牽制なんでしょ、なんで由奈の杏咲ちゃんを取ろうとするのよ」

 由奈さんの金切り声が響く。
 その言葉にわたしの名前が出てくるのに、理解が出来ないため、わかっているらしい巽に説明を求めた。

「え? 巽……なに?」

 すると巽は不愉快そうな顔で、頭をがしがしと掻いて言う。

「由奈はお前を好きなんだよ、恋愛感情として。お前にGPSをつけてしまうほど」
「わたしにGPS?」
「ああ。お前のスマホを弄らせたことあるだろう、由奈に」

 由奈さんはよくわたしのスマホで遊ぶのが好きだった。

――ねぇ、杏咲ちゃん。杏咲ちゃんのスマホ、弄らせて?

 ごく自然に、言われるがままにスマホを由奈さんに渡し、トイレに立ったときもそのスマホを取り返さず、由奈さんに預けたままで。

 そして巽は衝撃的なことを言い出した。

「由奈はお前が好きだから、お前の代償として広瀬とセックスをしていた」
「――は?」

 頭が理解出来ない。

「女だから、お前と繋がれねぇから。広瀬をけしかけて、お前の中に入った広瀬のものを自分の中に入れ、広瀬からお前がどうよがったか聞きでもしながら、お前の感覚を共有することで、お前とセックスをして繋がった気になって悦に入っていたんだろう」

 わたしはパニックを起こす頭を必死に宥めて、巽の言葉の意味を考える。

 つまり――。

 由奈さんと怜二さんがセックスをしていたのは確定で。

 由奈さんが怜二さんとセックスをした理由は、由奈さんが怜二さんを男として好きだからとか、セックスを楽しむセフレだからというのではなく、わたしと怜二さんがセックスをしていたから、怜二さんのものを感じながらわたしと繋がっていると倒錯していた……ということ?
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