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アムネシアは蜜愛に花開く
第5章 Ⅳ 歪んだ溺恋と束の間の幸せ
 
「え、でも……わたしと怜二さんが付き合う前からだったら……」

 ふたりがセックスをしている時期が早すぎる。
 巽はなんでもないような顔で言った。

「片想い同士の欲求不満の解消じゃね? 大方ふたりでお前の名前でも呼んで達していたんだろうさ」
「な……にそれ」
「由奈に寝取られ趣味があるのなら、理解者のふりをして広瀬にアズを抱かせて悶々としながら、その広瀬に宥めて貰っていたんだろうよ。お前の影を手繰り寄せながら」

 そんなもの、まるで狂宴だ。
 理解しても信じがたく、その真偽を求めた先――由奈さんは、涙でぐしゃぐしゃな顔をして、巽の言葉を否定せずにわたしに訴える。

「杏咲ちゃん、好きなの。杏咲ちゃんが好きでたまらないの」

 狂気じみた激情の迸る由奈さんの眼差しに、わたしの喉奥から、ひゅうと音がした。

「私が幸せにする。だから、ね? 由奈と付き合おう? セックスしよう? 本物じゃないけど、由奈、杏咲ちゃんといつかしたくて、双頭バイブを持っているから……」

 由奈さんは転がっていたバッグを手に取り、中から取り出したものを組み立てて見せた。

 しわしわで筋張ったような長い軸の両端には、ピンク色の男性器の先端を模したものがあり、あまりにも異様(グロテスク)だった。

 なにこれ。
 一体なにに使うのよ、これ。

 わたしは恐怖に青ざめ、完全に引いてしまう。
 
「ほら、可愛いでしょう? これをふたりの中に入れてスイッチを入れると、両方がブルブルして一緒にイケるの。ねぇ、由奈と一緒にイこう? ね、男なんかやめて、由奈に杏咲ちゃんのイキ顔を見せて?」

 それは哀願というより狂気だった。
 どこまでも歪んだ、愛という名の深い闇。
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