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アムネシアは蜜愛に花開く
第5章 Ⅳ 歪んだ溺恋と束の間の幸せ

「巽くん? なんで巽くんなの!?」
「巽は……古くから、わたしが好きだった男性なんです。初めて会ったわけじゃない。彼がいるから……わたしは怜二さんに濡れることが出来なかったんです。それは怜二さんのせいではない」
「杏咲……、なにを……」
怜二さんは目覚めていたようだ。
わたしは後ろを向いて土下座をした。
「……苦しませてごめんなさい、怜二さん。わたしと別れて下さい」
――藤城さん。俺と、付き合って……くれないかな?
――皆に報告! 俺は藤城杏咲さんと付き合うことになりました!
――杏咲、おいで?
優しいひとだった。
穏やかな幸せをくれたひとだった。
彼の苦しむ顔は見たくなかった。
――俺と結婚、して欲しいんだ。
「杏咲っ、俺……もっとうまくなるから。だから別れるなんて……」
いつもわたしを包んでくれた彼の、弱い姿も見たくなかった。
……元凶のわたしが泣いては駄目だ。
「もしも怜二さんなら。わたしが怜二さんを好きだから巽に抱かれていたとなったら、理解して許すことが出来ますか?」
「そ、それはっ。杏咲、違う。それは……」
怜二さんは、初めて由奈さんとセックスをしていたことをわたしにばれたのだと気づいたようで、震えながら言う。
「好きだからじゃない。セックスをしたかったからじゃない。俺達は、きみが好きでたまらないから――」
ああ、怜二さんの言葉がじりじりと蝉の音になる。
「そうよ。私も広瀬くんも好きなのは杏咲ちゃんなの。お互い愛情なんてまったくないわ」
由奈さんの声も、蝉騒となる。
「だから好きでもない奴と慰め合ってセックスしましたって? それは罪ではなく、好きだと言えば理解されて許されるとでも?」
巽がぶすっとした顔で言った。
「無理矢理はひとのこと言えねぇけど、顔を叩いて暴力を振るった……いや、由奈を抱いていた時点で、その前に杏咲を濡らすことがデキねぇ時点で完全にアウトだろ」
「お前になにがわかる! 外野は引っ込んでろ!」
怜二さんは怒鳴るが、巽は引かなかった。

