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アムネシアは蜜愛に花開く
第5章 Ⅳ 歪んだ溺恋と束の間の幸せ

「巽が、由奈さんがわたしを好きだというのはいつ気づいたの?」
「……最初から。由奈はひと言も言っていなかったけど、俺は気づいていた」

 ペンチで三つ目の枷が外れた。

「三ヶ月前。打ち合わせの帰りに近道をしたラブホ界隈で、広瀬が由奈とラブホから出て来たのを偶然目にした。その後仕事で来た広瀬が、お前のことを恋人だと告げた時、ラブホに行く相手が違うだろうと」
「……」
「大体さ、相手先に惚気るほど惚れた女がいたら、他の女と寝ようとしねぇだろ。なにかおかしいなと」

 巽はそれから色々と話してくれた。
 決して饒舌ではなく、ぶっきらぼうだったけれど。

 巽は、家を出たわたしの所在を探していたらしい。
 社名に惹かれてわたしもアムネシアにいると読んでアムネシアに入った巽は、わたしが就活に失敗していた可能性は考えていなかった。

 そんな時偶然にも、怜二さんによりわたしはルミナスにいたことが判明し、わたしを確実に手にいれるために、ルミナスごと貰い受ける荒技にてわたしが逃げ出せないように囲おうとしていたようだ。

「アムネシア専務として、ルミナス社長に重役職をちらつかせて吸収話を持ちかけた際、ちょうど茶を出したのが由奈で、社長令嬢だと知った」

 そしてふたりになった時、ラブホの前で見かけたことを言って、巽は由奈さんに期間限定の偽装婚約のふりを持ちかけたようだ。

「婚約は由奈の方が乗り気でさ。あいつの望みは婚約者として、お前達の前でいちゃつき、由奈曰く〝調子に乗って結婚までしようとしている〟広瀬を牽制することだった」
「怜二さんとセックスをするのはよくても、結婚するのは〝調子に乗る〟なんだ?」
「ああ。広瀬とお前が結婚することによって、お前の人生までもが広瀬に縛られ、もう手が届かなくなる。セックスは許せても、そこまでは許せなかったんだろう」
「……」
「由奈はお前が、俺に嫉妬して由奈を取られたくないと泣きついてくることを望んだ。そういう点で俺達は同志であり、婚約は協定だった。……まあ、あいつは、俺が本当に手に入れたいのはルミナス財産と思っていたけど」

――お前を手に入れるためには、俺は由奈との結婚を知らしめることが必要なんだ。

 由奈さんは、親の会社を売って巽の手をとったのか。
 だからこその突然のルミナス吸収劇。
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