この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
アムネシアは蜜愛に花開く
第5章 Ⅳ 歪んだ溺恋と束の間の幸せ

「……由奈はお前に恋愛感情がないことや、自分が男でないためにお前と繋がれないのを、思い悩んでいたんだな。だからといってアブノーマルに走るのはどうかとも思うけど、一方的な拘束道具と、ふたりが楽しむバイブが、由奈なりの葛藤があったんじゃないかって思うんだ」
セックスは愛の行為だと思えばこそ、セックスが出来なければ偽りに走る……わたしだってそうだった。
偽りでも男性器でなければ、愛の行為が出来ない……由奈さんはそう考えたのだろうか。
「広瀬と寝ていることはあっさり白状した。罪悪感がなく逆にお前の話ばかりで、恋愛感情を拗らせていると思った。俺としては、広瀬を邪魔する側にいてくれた方が助かると思ったけど、寝取られ趣味もあるとは参った。牽制にもなりゃしねぇ」
巽は笑いながら、最後の枷を外した。
「アズ。最悪な形の別れ方にしてしまってすまなかった」
巽が神妙な顔つきで頭を下げる。
「俺が押しまくることでお前が自発的にあいつと別れてくれれば、せめて由奈からの懸想を隠しきれると思ったけれど、完全に俺の読み違いだ。お前をせっつきながら俺がお前に我慢しきれなかった結果が、またこんな崩壊だ」
巽は傷ついた顔をして、わたしの頬を撫でる。
「……今度こそは守りたかったのに」
「守ってくれたよ? 巽は」
いつだって義母が出る十年前の悪夢に引きずり込まれそうになる度に、巽は駆けつけ傍でひっぱりあげてくれた。
「これは……わたしが受けるべき罰なの。だから気にしないで」
「だったら俺のこの姿は、俺が受けるべき罰なのかもな」
傷はいつかは治る。
しかし壊れたものは直らない。
それがわかっていればこそ、わたし達はぎこちなく笑う。

