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アムネシアは蜜愛に花開く
第6章 Ⅴ アムネシアは蜜愛に花開く

そんなある日の午後二時。
専務室にはケースデザインの担当者が実に熱の入った説明をしにきて、それを巽はうんうんと真剣な顔で頷きながら、さらなる質問を繰り返している。
「――と、僕は思うんだけれど、藤城さんはどう思う?」
突然わたしに話を振ってくる巽は、にやりとした目をしたまま、心配そうな表情を作る。
「あれ、顔が赤いけど大丈夫? 汗も出ているようだけれど」
「……だ、大丈夫です」
わたしは軽く睨む。
「ねぇ、佐々木課長。変な機械音がしませんか?」
「ああ、専務も気づかれてました? なんの音でしょう。……あ、止まった」
「あれ、また聞こえ始めましたね」
ぎくりとするが、口から出てきそうになる声を必死に呑み込む。
「とても辛そうだね。本当に大丈夫かな」
傍目から見れば優しい上司だが、四六時中口紅のことで頭を悩ませて疲労するわたしとは違い、この男は別のことを考えられる余力があるらしく、さらに身体的には欲求不満らしい。
期日までにわたしを嬲ることに生きがいを見つけたようで、おかげさまでこの数日、早く口紅を完成させなければなにをされるかわからないという強迫観念に襲われるようになった。
「――では、私はこれで。氷室専務、藤城さんを早く休ませて上げて下さい。では出来ましたら、またご連絡を致します」
「ええ、課長申し訳ありません」
巽が俯いてぶるぶる震えるわたしの頭を撫でるが、余計なお世話だ。
むしろ、触らないで欲しい。
ふらつきながら立ち上がり、ドアが閉まる音がするまで頭を下げ続けたわたしは爆ぜた。
「……馬鹿ぁ、止めて、ねぇ止めてっ!!」
「なんのことかな、藤城さん」
にやりと笑う巽は、またソファに座るとわたしの手を引いて引き寄せるものだから、四つん這いの格好になる。巽は背広のポケットから取り出した小さなピンク色のリモコンのボタンを押すと、ヴィィーーンという機械音が大きくなり、わたしの身体が跳ねた。

