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アムネシアは蜜愛に花開く
第6章 Ⅴ アムネシアは蜜愛に花開く
 巽の膝に跨がって抱き付く不埒な姿を晒していることに慌てて居直ろうとしたが、巽は背中と腰に回した手に力を入れてわたしの動きを封じた。
 
「巽、誰ですこの女はっ!!」

 わたしの身体は巽に抱き付いたまま凍てついた。
 とてもじゃないが、顔を見れない。

「俺はまだまだ遊びたくてね。結婚はもう少し後でもいいかなと思って」
「わたしのユキシマの次期社長の座を蹴って、こんな不埒なことを!」

 ユキシマの次期社長……つまり現社長は、お義母さんということ?

「は! 母さんが愛人をした前社長が死んだおかげで、取締役から場繋ぎで社長になれただけ。俺が社長になんてなれるわけないじゃないですか。いい加減、目を覚まして下さい」

「あの女のせいね、藤城杏咲!! 色狂いのあの女がまたあなたをおかしくさせたのね!」

 わたしの心臓が鷲づかみにされて、握り潰されているような圧迫感を感じる。
 いまだ続く、否、あの時以上かもしれない憎悪に。

「私、あの女のことはなんでも知っているのよ!」
「ああ、そうでしょうね。広瀬怜二を使って、彼女の会社を潰そうとしてましたし」

 ――え!?

 不意に香代子の言葉が思い出された。

――あれは逢い引きではないよ、〝取締役によろしく〟と言っていたし。
――母さんが愛人をした前社長が死んだおかげで、取締役から場つなぎで社長になれただけ。

「それをわかっていて、なぜアムネシアに来て、あんなすぐ潰れるような弱小会社を救済したのよ。どうせあの子を守るためでしょう!? またあなた、誑かされているの!?」
「母さん。僕は、アムネシア専務として会社の利益になるためにしたんです。人聞きの悪いことは言わないで下さい」

 巽は、守ってくれていたのか。
 私が愛したルミナスをすべて。

「巽、良い子だから、昔の可愛い母さんの巽に戻って。母さんが好きだとそう言っていた、あの頃に。母さんの手で男になった可愛い――」
「黙れっ!!」

 巽はソファをバァァンと手で叩いて遮った。
 そしてわたしの耳を両手で塞いでなにかを激高していた。

 わたしの頭の中に昔のことが戻る。

 わたしが受験期の時、彼はわたしになにかを必死に訴えていた。
 それは――好きだという気持ち以外にもあったの?

 ねぇ、助けてって、そう言ってたの?
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