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アムネシアは蜜愛に花開く
第6章 Ⅴ アムネシアは蜜愛に花開く

 考えてみれば、彼は急に大人びて色気づいた。
 その心境の変化が、恋愛感情の否定だけに留まらなかったら?

 わたしの心臓はドクドクと早鐘を打つ。

 わたしは自分の心を守るために、巽のSOSを無視していたというの?

 わたしの耳から手が外れた時には、義母の姿はいなかった。

「悪いな。こんなに早く戻るとは思ってなかった」

 巽は辛そうに笑う。

「ねぇ、巽」
「作戦を練ろう。仕掛けてくるぞ、母さんと広瀬が」
「巽ってば」
「筒抜けだったな、溺愛として。保険をかけていてよかった。よし、これからは――」

 わたしはわたしから背け続ける巽の顔を両手で挟んで、わたしの目に合わせた。

「巽、答えて。あなたは昔、お義母さんに性的虐待を受けていたの?」

 巽の瞳が動揺に揺れるのをわたしは見逃さなかった。

「なに馬鹿なことを」
「されていたんだね、助けてって、わたしに言ってたんだね?」
「……」
「巽。正直に答えてよ。中学時代、されていたんだね?」
「……終わったことだよ。今さらだ」
「終わってないじゃない!」

 だからなのか。
 義母があそこまでわたしを恨むのは、巽を男として見ていたから『寝取った』なのだ。

「終わってないよ、まだ」

 巽の瞳の奥に、まだ疵が見えるから。
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