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アムネシアは蜜愛に花開く
第6章 Ⅴ アムネシアは蜜愛に花開く

***
ユキシマが動いたのは、義母が来た五日後だった。
専務室に、ユキシマの新取締役として就任した怜二さんと、その秘書で由奈さんが現われたのだ。
「元気だった、杏咲? この間は叩いてしまってごめんな」
「ふふふ、杏咲ちゃん。ごめんね、辞めちゃって」
至って普通に、いつものように。
あんな別れ方をしたとは微塵にも思わせない様子で。
「今度はゆっくり温泉に浸かろうか。前はそれどころじゃなくなってしまったから」
「そうね。今度連絡するわね、杏咲ちゃん」
「お前は遠慮しろよ。杏咲は俺の彼女だぞ?」
「やだあ、元でしょう?」
「すぐに現に戻るから。ね、杏咲?」
わたしは、目が笑っていないのに笑顔を見せるふたりにぞっとした。
彼らにとって、あの熱海は終焉ではないのだろうか。
「させやしませんよ、広瀬さん。現実をわかってらっしゃらないのなら、僕が何度でもお相手を致します」
そして、わたしの隣に座る巽の目も笑っていなかった。
「ははは。若さっていいですね、専務。しかしそれだけでしょう、あなたの利点は。聞きましたよ、あなたは杏咲の弟だったとか。その執着は、異常だということに早く気づいた方がいい」
わたしはスカートを握る手に力を込めた。
「杏咲ちゃん。さすがに禁断ぶった元姉弟というのは気持ち悪いよ? まだ女同士の方がいいと思うの」
〝異常〟
〝気持ち悪い〟
悪意ある言葉に心を貫かれたわたしが唇を戦慄かせると、巽が大きな音をたてて机を叩き、その空気を覆した。
「あんた達からそんなことを言われる筋合いはない。俺にボコボコにされたくなければ、さっさと帰れ!」
巽は本気で怒っている。

