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アムネシアは蜜愛に花開く
第6章 Ⅴ アムネシアは蜜愛に花開く

「ははは、嫌だなあ専務。冗談を本気で怒るなんて」
「本当に。子供みたいね」

 くすくすと笑う彼らの顔には、冗談めいた揶揄の色はなく、どこまでも本気で、両者がぴりぴりしている。

「用がないなら、お帰り下さい」

 わたしは頭を下げた。

「ここはアムネシアの専務室で、談話室ではありません。御用がないのなら、わたし達はこれからやらねばならない仕事がありますので」

 どうしてこうなってしまったのだろう。
 こんな……他人よりも遠いような間柄ではなかったというのに。

 恐怖と罪悪感がわたしの胸に渦巻き、もう目を合わすことが出来ないほど、彼らとの時間を苦痛に思う。

 それを感じ取れないふたりではないだろう。
 息を飲む音と共に、空気がさらに研ぎすまされた気がして、肌が痛い。

「お忙しいようなので、本題に移させて貰います」

 怜二さんは綺麗な顔に、不遜な色を浮かべて、巽に言った。

「ユキシマ社長より氷室専務と杏咲に、これを渡すようにと言われまして。ユキシマの創立六十周年のパーティーが今月末にあり、これを発表しようと思っています」

 差し出されたパンフレットにあったのは――。

「『溺恋』……」

 その文字が目に飛び込んできて、わたしは目を瞠った。
 それだけではない。

 そこにあった商品は、巽が怜二さんに語っていた溺愛という名の偽りではない――わたし達が進めている溺恋そのものだった。

 二日前に決定したばかりのアムネシアの花がついた、細身で曲線を描いたケース。苦労してたどり着いた、光の粒子を飛ばしたような効果のあるアムネシアローズの色。

 恋に溺れるというフレーズからなにからなにまで、わたし達が考えてこうしたいと思った溺恋の口紅の完成形がそこにはあった。

 やられた。

 保険をかけた気でいて、足元を掬われていた。
 怜二さんは、流される情報を鵜呑みにするほど馬鹿ではなかったのだ。
 ちゃんと裏付けをとったに違いない。
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