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アムネシアは蜜愛に花開く
第6章 Ⅴ アムネシアは蜜愛に花開く

「こちらは正々堂々と受け立つこと、社長に必ず伝えて頂きたい」

 巽の宣戦布告だ。
 本気だ、巽は。

「そ、そうですか。では勝負ですね」

 巽が揺らいだ様子を見せないことに、硬質な表情をしていた怜二さんも強気だった。

「では勝負として、賭けませんか」
「賭ける?」

 首を傾げる巽に、怜二さんは真顔で言った。

「はい。販売後二週間の売上で、もしユキシマが勝ったら杏咲を頂きます」

 わたしの呼吸が止まる。

「それは、引き抜くという意味で?」
「公私ともに、という意味です。所有権を専務から俺に移させて貰う」

 ……やはり、わたしが浮気をした末の別れ話は、終わっていなかった。
 怜二さんも由奈さんもあの日の狂気に満ちた目のまま、時が止まっている。
 
「いいでしょう」
「たつ……専務!」 
 
 巽は長い足を組みながら、不敵に笑った。

「ではこちらが勝ったら、杏咲からはすべて手を引いて貰います。こちらもですが、広瀬取締役も由奈さんも、そして社長も、結果に対して異論を唱えないこと。それでもよろしいですか?」

 怜二さんは一瞬詰まったような顔をしたが、頷いた。
 わたしは、かつて好きだと思ったひとの顔を見つめて、声音を抑えながらどうしても本人の口から返答して貰いたいことを質問した。

「怜二さん。ユキシマにルミナスの情報を流していたのは、怜二さんだったんですか?」

 彼は動揺したように静かに目を伏せ、そしてわたしの目をじっと見て言った。今日、初めて合った視線だった。

「杏咲。俺は……きみへの気持ちだけは嘘をついていなかった」

 そのほかは嘘をついていたとばかりに怜二さんは、悲哀に目を細める。
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