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アムネシアは蜜愛に花開く
第6章 Ⅴ アムネシアは蜜愛に花開く

「はっ。由奈とセックスして、杏咲の頬をあれだけぶっておいて、なにを今さら」
巽が唾棄したが、次に由奈さんが続けた。
「杏咲ちゃん。私も杏咲ちゃんが好きなの。だから絶対、巽くんに渡さないから」
……結局、天罰は甘くないということだ。なにひとつわたしの声は届かず、解決していなかった。
わたしが勝手に終わったことだと、自己完結していただけだったのだ。
それからの記憶は曖昧で、気づけばふたりがドアを閉めて帰り、我に返るわたしと巽は手当たり次第、外注していた会社に電話をかけた。
「な、なぜですか!?」
最悪な予想通り、どこもが仕事をキャンセルしたいと口を揃える。
アムネシアからの電話一本で終わらせるのは、今後アムネシアからの発注がなくなっても十分な見返りを、同時進行でユキシマから呈示されていたことを意味する。
外注するにあたり、裏切ってはいけないと契約書を交したわけではなく、これは会社同士、担当者同士の信用の、ある種口約束だけの効果しかもたない。わたし達には、こちらの仕事をやれと言える強制力はないのだ。
こんなにあっさりと裏切られて呆然としているわたしの横で、電話を切った巽がため息をついた。
「すべて……ユキシマの手がかかっている。数件、別のところをかけてみたが、ユキシマの発注で忙しいらしい。周りを押さえられている」
「だったら、どこに頼むの!? しかも納期は二週間くらいしかないのに!」
「スティックの方は、ルミナスとアムネシアの製造部門で作らせる。元々時間がかかるということで外注にしたんだ。アムネシアの進退がかかっている、二工場でフル稼働して貰うさ。問題はケースと広報だな、アムネシアに独自部門はない」
巽は険しい顔でぎりぎりと歯軋りをすると、ギラついた眼差しでわたしに言う。
「頼れるところがひとつある、そこに行こう」

