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アムネシアは蜜愛に花開く
第6章 Ⅴ アムネシアは蜜愛に花開く
 
 ***

 東京駅に走ってくれた運転手さんが向かったのは、都心にある大きな持ちビル会社だった。

 『アートエージェンシーコーポレーション』と看板があるが、わたしにはなんの会社かわからない。

「AACはモデル代行業、広告代理店業もしている。頼れるのは社長しかいない」

 磨かれた自動ドアを開け、すぐ出てきた受付で、紺色の制服を着たやや年配の女性がこちらに頭を下げた。

「いらっしゃいま……タツミじゃない!」
「お久しぶりです、佐々木さん。加賀社長に会いたいんですが」
「いや~、立派になって! いいわよ、どうせ暇しているからすぐ通すわ。皆、タツミちゃんが来たわよ!!」

 すると奥からわらわらとひとが出てきて、巽を取り囲んで巽に触って喜んでおり、巽も完全に素の顔で嬉しそうに笑っている。珍しいくらいに、巽は心を見せているようだ。

「ねぇ、そこにいるのは彼女!?」
「だよね、今度来る時は彼女を連れてくるって豪語していたものな?」

 わいわいと好奇な視線がわたしに向けられると、巽はわたしを抱きしめるようにして言った。

「俺の彼女をいじめないで下さい、怯えているじゃないですか」

 付き合ってはいないけれど、巽に恋人扱いされたのが嬉しくて顔を赤らめさせると、皆がわたし達を取り囲み、喜んでくれる。

 ひとから理解は得られないと思っていたわたしの恋の終焉は、こうやってひとに祝福されるものだとは思わず、とても嬉しくて泣けてしまった。
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