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アムネシアは蜜愛に花開く
第6章 Ⅴ アムネシアは蜜愛に花開く

わたしが伝えるイメージに対して、年の功ともいうべき発案でそれ以上のものを提案してくれる斎藤社長らメンバー達は、神がかり的な器用さで原案以上の繊細な装飾を彫ってくれるし、安く仕入れたというパーツをつけてくれる。芸術的な出来に感動して何度も泣いてしまいながら、こんなに愛情を注がれて作るんだ、こちらだって愛情を伝えなきゃ、と意気込まずにはいられなかった。
それをバネにして、わたしはさらに難問に取り組む。
――巽にできなくて、お前に出来ることはあるはずだ
――揉めたら甘いものだ。
血が繋がっていなくても昔は理解しあい、笑い合えていた。血の如何を理由に逃げる子供の時間はもう終わったのだ。巽を手に入れるためには、わたしが強さを持ち、トラウマを乗り越えねばならない。
手土産は、シュークリームにした。甘い物が大好きだった義母が好きだったことを思い出し、巽には内緒で、運転手さんにスマホで調べた美味しい店に連れて貰い、品川寄りにあるユキシマでアポなしで義母と会おうとしたが、受付嬢が義母に確認した時点でアウトとなる。わたしは明日も来るという伝言と、買ったシュークリームの大箱を社長に渡して欲しいと、受付嬢に押しつけて帰る。
次の日、やはりわたしと会ってくれないため、別の店で買った沢山のシュークリームと、したためていた手紙を受付嬢に渡して貰うことにした。
以降も会ってくれない義母に、シュークリームと手紙を押しつけに通う。 もうこうなれば意地。
懐は痛いけれど義母が音を上げるまで続けようと思う。
義母への手紙には、最後にこう結んでいた。
『どうか発表当日、わたし達が作った口紅を見に会場に来て下さい』と。
本物(オリジナル)の持つメッセージを肌で感じて貰いたかったのだ。

