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アムネシアは蜜愛に花開く
第6章 Ⅴ アムネシアは蜜愛に花開く

「そういう可愛いことは本体の俺にしろよ。なんで俺がいない時に、上着にするんだよ。どうして俺が、自分の上着に妬かなきゃならねぇんだよ!」
「ご、ごめんなさい?」
「本当にわかっているのか、アズは」

 巽がわたしを抱きしめ、耳元で囁く。
 ふわりと漂う巽の匂いと、力強さにくらくらする。

「上着と俺、どっちにこうやってされたいんだよ」
「……巽」

 わたしは巽のワイシャツを握って彼の胸に頬をすり寄せそう言うと、巽はわたしの頭を優しく撫でながら、甘い眼差しを向けてくる。

「アズ。お前、動き過ぎ。疲れ果てて今夜、寝るんじゃないぞ? 俺、寝させてやらねぇぞ? 今のうち仮眠とっとおけよ」

 意味ありげに語られた〝今夜〟。
 それは巽と約束していた、抱かれる日を意味する。

 だが今夜だとは思っていなかったわたしは、純粋に驚く。
 
「え、今夜? 巽も連日徹夜しているんだから、明日以降でも……」

 すると、リップ音をたてて唇を奪われる。

「今夜決行」

 艶やな男の目でわたしを捕らえ、巽は言う。

「どれだけ楽しみに、今まで働いたと思う? 今夜こそ、お前を俺のものにする。早く俺のものになれよ」
「……っ」
「俺達の始まりの日を延期などするもんか。……寝かせねぇよ?」

 手を取られて指を絡められる。

「今日、すべてを片付ける。だからお前は、なにも考えずに俺についてこい」

 頼もしいのか俺様なのかわからないけれど、わたしはまた目を潤ませた。
 
「昨日から何度泣いてるんだよ」
「だって……」
「……ああ、もう。お前可愛すぎなんだって」

 笑う巽が、わたしの唇を奪う。

「ん……ぅ、あ……」
「アズ……っ」

 噛みつかれるかのような性急なキスに、巽の想いが伝わって、またわたしの目尻から涙が零れてしまう。

 角度を変えたキスは深くなり、わたし達の手から段ボールが音をたてて床に落ちる。

 しっかりと互いの背に巻き付いた両腕が、早くひとつになりたいともどかしく動き、隙間がないくらいに体を密着させ抱きしめ合う。
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