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アムネシアは蜜愛に花開く
第6章 Ⅴ アムネシアは蜜愛に花開く

 巽自身の香りを吸い込み、巽の熱を感じて、体を熱く濡らしてしまうわたしは思うのだ。

 巽に抱かれたい。
 巽とひとつになりたい。

 自分でも止めることが出来ないほどの衝動。
 恋の海に溺れきり、助けを求めて巽の腕だけに縋りつくような、切実な感情。
 
 これは初恋への執着ではない。
 わたしは今のこの巽も、愛している――。

「早く夜にならないかな……」

 しかし夜の前には、超えねばならない山がある。
 
「この影のように、お前とひとつになりてぇよ……」
 
 ……朝日を浴びて伸びたふたつの影は、既にひとつになっている。

 わたし達は、本当にすべてを終えて、ひとつになれるのだろうか。
 わたしの恋は成就するのだろうか。
 この温もりを、また体で感じられるのだろうか。

 もしも、わたし達のアムネシアが負けてしまったら、わたしは――。

 揺れるわたしをがっしりと抱きしめる巽は、何度もキスをしながら言う。

「アズ、大丈夫だ。俺はもう、お前を守れない子供じゃない。なにも心配せず、俺に思いきり愛されることだけを考えてくれ」

 彼に抱きしめられている幸せな今を、永遠に止められたら。

「広瀬との賭けだって、今日で結果を出してやる。絶対あいつに、アズを渡さない」

 わたしは頷いた。

 自分の不安より、巽の言葉の方を信じたいから――。
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