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アムネシアは蜜愛に花開く
第6章 Ⅴ アムネシアは蜜愛に花開く


 皆で仮眠を取っていた中で、加賀社長から電話があったのは、朝の九時だった。
 モデルが渋滞に巻き込まれて、CM撮影が出来ないという連絡だった。
 撮影セットが出来ているのに、イチオシモデルが器用出来なくなったというアクシデント。
 もうひと頑張りなのに、CMがなければお茶の間に拡がっていかなくなる。

 午前中はユキシマ、午後からはうちの記者会見がある今日、なぜそんなぎりぎりの撮影かはわからないけれど、後は香代子達に任せて、わたしと巽は撮影現場である日比谷公園に向かった。

「巽、お前やれ」

 息を切らせて駆けつけるなり、厳しい顔をした仁王立ちの社長がそう言った。

「お前なら引退しても、一発撮りが出来るだろう」

 にやりと口端を持ち上げると、巽は頭を掻きながら、そういうことかと舌打ちをする。

「ああ、そうだよ。お前に勝る逸材は残念ながらいねぇし。なあ、アズ。巽のモデル姿、見たくねぇか?」
「見たいです!」

 率直に答えると、巽に睨まれてしまった。

「だよなぁ、俺の目に狂いはねぇから。お前達で頑張れや」
「……お前達?」

 他に誰かいるのかと後ろを向くと、社長は笑う。

「お前と巽がモデルをしろ。しっかり撮ってやるからな」
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