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アムネシアは蜜愛に花開く
第6章 Ⅴ アムネシアは蜜愛に花開く

「どうすれば聞いて頂けるでしょうか」
「どうしてもというのなら、ここで土下座でもしてみたら?」
こんな人が多い会場で、屈辱の姿勢を取れと嘲笑いながら義母はいう。
「この私と対等にやりあおうなんて思わずに、身の程をわきまえなさい」
だからわたしは――。
「……っ」
素直にその場に正座をして降伏の姿勢を取った。
「これでよろしいでしょうか」
頭を下げながら言うと、頭の上に義母の草履が置かれ、ぐいと力を入れられた。
香代子の悲鳴。
怜二さんの声。
巽の叫び声。
「いいの。これはわたしの罰なの!」
足で踏みつけられながら、わたしは周囲を制する。
わたしはどうなろうと構わない。
理解して貰えないならそれでもいい。
だけどせめて巽のことだけは言いたい――。
「お義母さん。巽の話をしたいんです」
巽のためなら、幾らだって強くなれる。
恋に溺れている者は無力などと、勝手に決めつけるな。
恋をしているから、わたしはどこまでも強くなれる。
「気安く息子の名前を呼ばないで貰えるかしら。……汚らわしい」
さらにぐっと力を入れられ、額がカーペットに擦られる。
「あなたは、女である前に母親なんです」
わたしは叫ぶ。
「巽に代償を求めず、無条件で愛して下さい」
どうか巽を。
どうか、どうか。
「うるさい!」
ヒステリックな甲高い声が向けられたのと同時にわたしの身体が浮き、ふわりとアムネシアの香りが鼻を擽った。
「母さん、やめてくれ」
巽がわたしの肩を抱いて立っていた。

