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アムネシアは蜜愛に花開く
第6章 Ⅴ アムネシアは蜜愛に花開く

「好きで、好きで。たまらなく好きで。そのひとの存在が生きる理由になっていて、諦めたくても諦められない人間に、そこまで恋に溺れ、弱って死んでしまいそうな人間に。気持ち悪いとかいけないものだと否定する前に、この気持ちが本物なのだと、辛いほどの本当の恋をしているのだとわかって貰いたかった」

 巽は語りかける。
 ただひとりの母親に向かって。

「すべてを捨ててもいいと思える俺の恋を、一時の気の迷いとか、アズを狂ったように言わないでくれ。二十年も抱えた俺の想いを、偽りにしないでくれよ。あんたのものさしで、俺の気持ちを測らないでくれ。俺は……あんたの道具じゃない。俺を育ててくれたたったひとりの親を、俺に捨てさせるなよ」

 巽が声を向けた先は、唇を震わせていた。

「杏咲を認めてほしい。頼むから、杏咲を俺を理解しようとしてくれ。……お願いします」

 わたしも嗚咽を堪えながら、頭を下げる。

 巽と血が繋がっているのだから、わかるはずだ。
 巽が抱えたものを。

 捨てたくないと叫ぶ巽の心が、どうか伝わって欲しい。

 静まり返った中、隣から凛とした声が響く。

「……杏咲も巽くんも、十年前に心に疵を負い耐えてきました」

 香代子だ。

「もういいじゃないですか、ねぇ、お義母さま。CMを見たでしょう? あれがふたりの偽りない姿なんです。幸せそうで互いを必要としているのがわかったでしょう? 他人のわたしですらわかったのだから、お義母さまにはもっとおわかりのはず。息子さんの気持ちが。そして杏咲の気持ちが」
「香代子……」
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