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アムネシアは蜜愛に花開く
第6章 Ⅴ アムネシアは蜜愛に花開く

ぱらぱらと拍手がまた湧き、それは次第に大きくなった。
「認めてやれよ」
「認めて下さい」
観衆が声を揃える。
「あんな幸せそうなふたりを、引き離さないで」
「CM、凄くよかったよ」
「どうか頑張って」
認めようとしてくれているのがありがたくて、わたしも巽も、皆に頭を下げた。
わかってくれようとしているひとがいることが嬉しくてたまらなかった。
こんなにも世間は温かい。
勝手に非情にしてしまっていたことを後悔するほどに。
「私は――鬼母なんですか?」
義母の声に静まり返る。
「たかが恋如きに溺れる息子を正しく導いてはいけないのですか? 私は息子を産んだ母なのに」
巽には女を押しつけながら、母でいたいと悲痛に叫ぶ。
どれが義母の本音?
……きっと、どれもが本音なのだろう。
先に生きているからといって、矛盾なきものを抱えられるほど、ひとは強くない。
間違って壁にぶちあたって、泣き叫んで。
そうして見えてくるものがあったっていいじゃないか。
それを言えるのはきっと、同じ〝女〟であり、巽と同じ〝子供〟だったわたししかいない――そう思い、わたしは声を上げた。
「〝たかが恋如き〟と決めつけるのは、ただの我欲です。お義母さん」
わたしは言った。

